西村京太郎

1.推理作家 西村京太郎

きっかけ

僕はもともと子供の頃から本が好きで、小学校に入学してからは江戸川乱歩*1の探偵小説を愛読していたんですよ。その後はディクスン・カー*2とかエラリー・クイーン*3とか、早川書房や東京創元社から出ていたミステリーをほとんど読みました。
ミステリーの醍醐味というのは、犯人はいったい誰かと、いろいろ考えながら一生懸命読んでいるでしょう?そうすると、最後の最後にドスンと落とされる。その感覚が好きなんですよ。ワクワクしてきますね。
確か、昔のカーの作品だったと思うのですが、全ての章の終わりに作者の言葉で、例えば「あなたは、この男が犯人だと思っているだろう。しかし、実は違うのだ」と書いている作品があったんです。あれはなかなか面白い趣向だったなあ。
*1.
江戸川乱歩(えどがわらんぽ):1894〜1965 明智小五郎、少年探偵団を生んだ、日本の探偵小説の父と呼ばれる推理作家。
*2.
ディクスン・カー:1906〜1977 アメリカの推理作家。密室トリックや人間消失をテーマにした作品が多い。
*3.
エラリー・クイーン:アメリカの推理作家。F・ダネイとM・B・リーの2人が小説を書く時に用いたペンネームであり、作品中に登場する探偵の名前でもある。

デビューまでの道のり

20歳ぐらいの時には仲間と「パピルス」という名前の、文学全般の同人誌をやっていました。ただ、僕はその時はまだ推理小説を書いていなくて、ガリ版で挿絵を描いていたんです。
その後、作家になりたくて、公務員をやりながらいろいろな小説雑誌の懸賞に応募していました。でも、なかなか結果が出なかった。
それで29歳の時、公務員を辞めて、小説を書くことに専念したんです。作家になれるかどうか不安はありましたが、もうやるしかない。そんな気持ちでしたよ。
そして、31歳の時だったかな、推理小説専門誌「宝石」に『黒の記憶』という作品が初めて掲載され、その2年後くらいに『歪んだ朝』が「オール讀物」の新人賞に入選して、それでやっと作家としてやっていける自信がついたんです。

デビューしたばかりの頃は、何を書いたらいいのか、自分でもよく分からなくて、いろいろなタイプの作品を書きました。シリアスな社会問題を扱ったものもあれば、海や船をテーマにした海洋ミステリーもありましたし、アガサ・クリスティ*4の名探偵ポアロやジョルジュ・シムノン*5のメグレ警部といった有名作品の主人公を登場させたパロディものもありましたから。
*4.
アガサ・クリスティ:1890〜1976 イギリスの女流推理作家。「ミステリーの女王」と呼ばれる。
*5.
ジョルジュ・シムノン:1903〜1989 ベルギーの推理作家。純文学の作品も多数ある。

十津川警部の登場

小説を書くにあたって、自分の作品を代表する「刑事」のキャラクターが欲しくて考えたのが十津川*6です。僕は歴史ものの小説も好きで昔からよく読んでいて、その中に幕末の十津川郷士*7の話がありました。十津川という言葉の響きが気に入って、それを使ったんです。
何年か前の話ですが、十津川が定年後に自分のルーツを奈良県の十津川村に探しに行くという話を考えて、実際に十津川村に取材に行ったことがあるんです。
そうしたら、今、十津川村には十津川という姓の人は1人もいないのだそうで、残念ながら、この話は書けなくなってしまいました(笑)。
今でこそ、僕はトラベルミステリー作家といわれていますが、十津川を初めて登場させた頃、トラベルミステリーはまだ書いていなかった。十津川のデビューは『赤い帆船』という海洋ミステリーだったんですよ。
だから、十津川は大学時代、ヨット部に所属していたという設定にしちゃったんです。その時はこんなたくさんの、しかもトラベルミステリーに登場するなんて思ってもみなかった。これならヨット部ではなくて、鉄道愛好会にしておけばよかったですね(笑)。
*6.
十津川(とつがわ):西村作品に欠かせない、警視庁捜査一課の警部。名前は省三。10数年前から年齢は40歳のまま。
*7.
十津川郷士:江戸時代、奈良県の十津川郷に在住していた武士。
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